物件解説
東武東上線「東松山」駅から、ぼたん通りを抜け、北へ歩くこと12分ほど。鉄筋コンクリート造の門型フレームとヴォールト屋根が姿を現します。2000年に竣工した、建築家である小川俶冶(おがわ・ひでや)により設計された個人住宅です。医師のご夫婦と7匹の猫の暮らしのために計画されたこの住まいは、ほどなくして、セカンドオーナーへと受け継がれました。
そして今、セカンドオーナーもまたライフスタイルの変化を機に、次の住まい手へとバトンを渡す時を迎えています。
小川俶冶は、群馬県生まれ。千葉大学大学院修了後、フィンランド政府交換留学生として北欧の建築・住宅文化に接し、帰国後は「デザインリサーチ」の名で設計活動を展開しています。北欧建築を学んだバックグラウンドを持つため、住宅設計において「スケール」「素材」「居住性」といった視点を丁寧に紐解きながら、住宅という日常の器を誠実に見つめ続けられています。代表作として、「吉祥寺の家」(1992年)や「勝浦の家」(1991年)などがあげられます。
北側道路から見る外観は、街並みのリズムに寄り添う控えめな間口の佇まいをしています。けれどもその奥には、クランクした土地形状を活かした、ふたつのヴォールト屋根がつくり出す、想像を超えた伸びやかな空間が広がっていました。

玄関扉を開けると、重厚な趣の階段が静かに姿を現し、2階へと導きます。階段を上ると、玄関ホール、リビング・ダイニング・キッチンへとつづきます。
2階のリビング・ダイニングには、もうひとつのヴォールト屋根が姿を現します。そのやわらかなアール(曲面)のかたちが、光を穏やかに受け止めながら空間全体へと広げ、明るくのびやかな開放感を生み出しています。室ごとに設けられたベランダには豊かな緑が配され、内と外をゆるやかにつなぐ心地よい中間領域を生み出しています。リビングのベランダには、1階の庭へとつながる外階段も設けられています。また南側は公園に面しており、庭の緑と一体となって伸びやかな広がりを感じられます。
ヴォールト屋根に沿ったハイサイドライトが、空をそっと切り取り、室内へ光を届けます。南北に視線の抜けが生まれることで、空間はさらに広がりを増していきます。
リビング・ダイニングに隣接した独立キッチンは、天井高をいかした明るくのびやかな空間です。料理教室を開けるほどのゆとりがあり、暮らしに自然な“集い”の気配をもたらします。ベランダでハーブを育て、摘みたてを料理に使う、そんな贅沢な時間がここには流れています。

少し珍しいかたちの和室では、隅に設けられた小さな床の間が、空間にやわらかな余白を添えています。高い天井も自然に馴染み、静かな落ち着きが漂います。 坪庭のようなベランダからは、季節の移ろいがやわらかに伝わってきます。

ガラスブロックを大胆に用いた室内階段の上質な雰囲気は、まるで高級ホテルの一角にいるかのような心地よさを感じさせます。階段横にはホームエレベーターも設置されており、将来的にも安心な設計です。

1階には、車庫と1階用内玄関、夫婦それぞれの寝室が設けられ、その中央に洗面室と浴室が配置されています。浴室には庭に面した大きな窓を備え、開け放てば、まるで露天風呂のような開放感に包まれます。この贅沢なひとときは、何よりもご主人が気に入っているそう。
浴室の窓を開け放つと、緑豊かな庭が広がります。タイル敷きのテラスと大きなオリーブの木が印象的で、まるで南欧のパティオのような心地よさです。木漏れ日と風が穏やかに流れ込み、日常の中に小さなプライベートリゾートの時間を感じさせます。
庭に面した大きな開口をもつ寝室は、光と緑を感じる穏やかな空間です。ピロティの半屋外空間は、奥様のお気に入りの場所であり、外ねこも思わず眠ってしまうほど。室内にはゆとりある収納とウォークインクローゼットが備わり、家具を置かずともすっきりと暮らすことができます。
2階リビングへと繋がる屋外階段と、こちらを見つめる外ねこ。奥に見える2つの木製扉はどちらも屋外用倉庫となっています。
もう一方の寝室も、庭に面した明るく開放的な空間です。書斎としても、ゆったりとくつろぐ場としても心地よく、暮らしに静かな余白を与えています。
南側隣地の公園から望む2つのヴォールト屋根。
都心からほどよい距離にありながら、穏やかな時間が流れる東松山。
この家では、光と風、そして季節の移ろいを身近に感じながら、心豊かな日常を重ねていけるのではないでしょうか。
建築家・小川俶冶は、「上質な普段着」としての住宅をつくることを目標としたと語ります。建築と暮らしが静かに調和するこの場所で、あなたも新しい日常のかたちを見つけてみませんか?
