建築家が設計した住宅と、ハウスメーカーによる住宅では、設計の自由度やコスト感、施工者との関係性など、様々なことが異なります。どちらを選べば自分の理想を叶えることができるのか、それは「暮らし」に対する価値観によっても様々です。建築家住宅手帖では、その名の通り、建築家が設計した住宅に特化した情報をお届けしておりますが、今回は私たちなりの言葉で、建築家住宅とハウスメーカー住宅の違いについて、まとめておきたいと思います。

①打ち合わせ回数と設計期間

建築家との家づくりは、間取りはもちろんのこと、窓の数や大きさや位置、床や壁、天井、外壁や屋根等家を作り出す全ての仕上材や、建具、家具、照明や外構等、0からすべてを設計していくため、幾度となく(場合によっては数十回以上)打ち合わせを積み重ねます。建て主の要望一つ一つを建築家がくみ取り、図面にし、そこにしかない「暮らし」を形づくっていきます。そのため、設計には多くの時間とエネルギーを要します。自分にとっての「理想の暮らし」とはなにかを、建築家や家族との対話から見つめ直し、要素を分解し、考え、整理し、形にしていく作業。これこそが「設計」なのです。

一方でハウスメーカーのつくる住宅は、より規格化され、生産性の高い基本プランをベースとして設計が進んでいくため、0から作るのではなく、決められた中から「選ぶ」を繰り返すことで住宅が出来上がります。そのため、設計打ち合わせの回数は少なくて済むことが特徴のひとつです。また、建て主は設計士と打ち合わせを進めることもあれば、メーカーの営業マンを窓口に間取りを作り上げることもあります。実際に図面を作成する設計士との打ち合わせは、少なくとも1~2回程度は行います。基本プランを元に設計作業を簡略化することで、設計から竣工までの期間は半年前後が目安となります。スピーディに建てたい人にとっては、理想の家づくりが実現するのかもしれません。

②建て主、建築家、施工者の関係性

建築家との家づくりと、ハウスメーカーとの家づくりでは、3者の関係性が明確に異なります。

建築家との家づくりでは、建て主と建築家が「設計契約」を結び、建て主と施工者が「工事請負契約」を結びます。建築家と施工者には契約関係はなく、お金のやり取りもありません。建て主と建築家がパートナー関係となり、建築家が建て主の代理人として設計監理を行い、家づくりが進行します。施工者の選定は、建築家のアドバイスを元に、建てるエリアや構造種別、コスト等によって選定します。日頃から建築家の住宅をつくり慣れている施工者であると、より一層コミュニケーションも取りやすく、心強いパートナーとなるかもしれません。また時には建て主の希望する施工者を選定する場合もあります。

一方ハウスメーカーとの家づくりでは、建て主とハウスメーカーが契約を結び、メーカー内で設計・施工を行うため、前述のような施工者の選定はありません。基本的にメーカー内の設計者と施工者が協議しながら工事が行われ、建て主は、メーカーの営業マンを窓口に打ち合わせを行い、家づくりが進行していきます。

③コストコントロール

建築家との家づくりにおいて、予算をどこにどう使っていくかは、①で述べた打合せの中から優先順位を整理し、コントロールすることが可能です。例えば、お料理好きな方の家づくりでは、こだわりを詰め込んだキッチン空間に予算を多くあて、本好きな方の家づくりでは、壁一面を本棚にするために造作家具に予算を多くあてるなど、理想の暮らしを実現するために、予算の使いどころを建築家と対話しながら決めていくことが可能です。なお、建築家の報酬である設計監理料は、規模にもよりますが、工事費の1~2割前後が一般的な目安となるでしょう。

一方、ハウスメーカーとの家づくりは、規格化+大量生産によりコストメリットが得られる、つまり比較的安価に住宅が手に入る仕組みでもあります。ただし規格外のことを希望する場合にはオプション対応となり、かえって高いものになることも。またハウスメーカーの住宅は、大量生産でコストメリットを得る代償として、大量に住宅を売るための広告費や販売促進費、住宅展示場の建設費、維持管理費、常駐する営業マンの人件費等が住宅コストに上乗せされることになるため、実際のコスト感がわかりずらい構造となるのは、注意が必要です。また設計監理料については、規格化に伴う設計作業の簡略化を図っているために、工事費の2~5%前後に押さえられていることが一般的です。

まとめ

このように建築家との家づくりとハウスメーカーとの家づくりでは、様々な違いがあります。この違いを適切に理解し、自分に合った家づくりのパートナーを選ぶことがとても大切です。ここでは新築住宅の想定で話をしてきましたが、新築ではなく建築家設計の中古住宅を購入することも、一つの選択肢です。理想の暮らしを実現するために、誰をパートナーとして選択するか。新築なのか中古なのか、様々な選択肢の中で建築家住宅がその一つとなるよう、これからも建築家住宅に関する情報を発信しつづけていきたいと思います。

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