
二子玉川駅から北へ。住宅街を抜けると、河川敷公園から鳥のさえずりと野球少年たちの掛け声が聞こえてくる。そんな多摩川のほとりに、この住宅はあります。2021年夏、その住まい手は、建主であった前オーナーから、新たに30代のご夫婦へと引き継がれることになりました。
「タラップのある家」。その名の通り、建物の正面の壁から、ニョキっと、タラップが張り出しています。この家を設計したのはミリグラムスタジオを主宰する建築家、内海智行氏。 2001年に設計され、最初のオーナーによって大切に住まわれてきました。
内海智行は1963年茨城生まれの建築家。多摩美術大学を卒業後、英国王立大学、筑波大学大学院にて修士号を取得し、大成建設設計部を経て、1998年にミリグラムスタジオを設立します。2002年に「仲池上の住宅」で東京建築士会住宅建築賞奨励賞を受賞するなど、個人住宅に加え、集合住宅や別荘で多数の作品を手掛ける建築家です。
タラップのある家は、仲池上の住宅と同時期に設計された、ミリグラムスタジオの初期作品にあたります。
タラップを登って、2階にある玄関扉を開けると、高い吹き抜け空間が目に飛び込んできます。2階、3階をつなぐ、その吹き抜けは、天窓からの光が降り注ぎます。それによって北向きの敷地にもかかわらず、とても明るいリビングダイニングになっています。玄関正面にある筒状のヴォリュームはトイレと空調機。曲面の壁が優しく空間をつないでいます。
現在は書斎として使われている3階。かつては子供部屋として使われていたようです。下階のリビングの両親と上階のお子さんが、声を掛け合う生活の様子が思い浮かびます。
階段を下りた1階には、寝室と水回り、そして大容量のクロークがあります。2階を玄関にすることで動線が2階を中心に分けられ、明るくにぎやかな2,3階に比べ、1階は静かで、落ち着いた空間になっています。
2代目オーナーの建築家住宅への物語
ご自身も建築設計のお仕事をしている、2代目オーナーのご主人。もともと中古住宅の購入を検討していたそうです。
「わたし自身は、ビルや商業施設など、大きな建物を設計する仕事をしています。かねてから中古住宅を買って、自分でリノベーションの設計をするというのが夢でした。ですから、結婚して、自分たちの家を持とう!と思った時、はじめは普通の戸建住宅の購入を想定していていました。建築家住宅を買う、とは少しも思っていなかったんです」
建築家住宅を買う、という選択肢が出てきたのは、建築家住宅手帖の存在を知ってから。しかし、SUUMOやアットホームなど、大手のポータルサイトで、時々「建築家住宅」が売買されているのは知っていたと言います。
「物件情報だけ見ていると、建築設計を専門にしているわたしでも、なかなかピンとこないんですよ。かっこいい建物だな。とは思っても、写真も少なくて、生活のイメージがわかないことが多いんです。だから、自分が住む家としてはあまり考えていませんでした。
建築家住宅手帖を知って、専門的な知識を持った人と一緒に見れるなら、と、まずは内見してみることにしたんです。」
「現地に行くと全然イメージが変わりました。スケール感や動線も自分の生活をイメージできて。すぐに『あ、この家住めるな』と思いました笑
住むにあたって、少し修繕やアレンジを加えてはありますが、今は、オリジナルの空間を尊重してほとんど元のままにしています。今後は住みながら設計・リノベーションをして、より自分たちらしい空間にしていくつもりです。」
奥さまはこう語ります。
「夫が建築にかかわる仕事をしているので、わたしは特に口を出さないで大丈夫かな、と思っていたんです。でも、見に行くことになったのが建築家住宅だったので、ワクワクする反面、ちょっと不安もありました。
最終的には、信頼できる創造系不動産さんや、リフォームをお願いする工務店さんと一緒に物件を見て判断できたので、安心して購入することができました。」
「住み始めた今は、天窓の明るさと壁に反射して降り注ぐ日光など、建築家がこの家に施した工夫を、改めて感じます。多摩川の花火大会を見るために作ったという屋上も、風や日当たりがとても心地よく、時々ビールを飲んだり、食事をしたりして楽しんでいます。」
築20年の建築家住宅の2代目オーナーとなったSさん夫妻。建築家住宅という特別なものだからこその魅力を、存分に楽しんでいました。
建築家住宅手帖では、掲載している作品以外にも、建築家住宅を買いたい、探してほしい、という要望にお応えしています。あなたも建築家住宅で、そこにしかない生活を楽しんでみませんか?
公開日 : 2022年03月02日 / 更新日 : 2022年03月02日
取材・文: 川原 聡史 / 撮影: 千葉 正人