建築の専門家たちはよく知っていますが、すべての住宅は、できるだけ長く使われるべきです。50年、100年と、人間の寿命を越えるほど長く、人々の暮らしとともに親しまれ、愛され、そして社会的ストックとしての役割をまっとうすべきです。その価値が認められれば、真の経済的な意味も生まれます。

これからは古いほど価値は高まる

将来、建物は古くなるほど価値が高まるようになるでしょう。時代を経るごとに深まる風合い。厚みを増す思い出や歴史。実際、古い建物をリノベーションして住みたい!という人が少しずつ増えています。アメリカやヨーロッパ諸国のように、日本でもようやく、その流れが生まれてきたのです。
しかし、日本は昭和から平成にかけて、「スクラップ・アンド・ビルド」の国として、国内外からレッテルを貼られてきました。長く残すどころか、数十年という短期間で壊し、また新品を建て替える。この背景には、次の5つの要因があったと考えます。

スクラップ・アンド・ビルドだった5つの理由

①戦後から高度成長期にかけて、日本の復興と経済成長を牽引したのが新築建設業だったこと。②人口が爆発的に増えたことが、新築需要を長期間下支えしたこと。③建設プロジェクトを実現するための金融業界のルールが、その新築偏重の供給を固定化してしまったこと。④政府もこの需要と供給を支えるために、新築住宅に体汁税制優遇を続けたこと。⑤建て主を含め、広く正しい知識や古き良さが文化として根付かなかったこと。

手段が目的化してしまった

しかし、冷静に考えると、スクラップ・アンド・ビルドはおかしなサイクルです。まだ使えるものを、木造は耐震性が低い、躯体は大丈夫でも設備が持たない、維持費のほうが高くつく、などのもっともらしい理由を並べて、結局壊してしまうのですから。
それは業界全体が生き残ろうとする、経済や経営の理論が優先されていると言えます。これは常に起こり得ることです。悪しき仕組みとして、自己修正がきかない状態、またはブレーキが壊れた状態に陥ってしまっていたのです。
建築を建てるということは、人々の生活のため、より良い社会のため、そうして形成される文化のための「手段」です。その手段が、偏った経済成長のため目的化してしまった、と言えます。そこには「無駄」があります。その無駄に、上の5つの要因によると、税金まで投入しているということになります。

建築以外に必要なもの

税金は、いま、または将来、本当に必要なものを優先に、使われなくてはなりません。人々の快適な暮らしのためには、新築住宅もまだ必要です。しかしそれ以上に、若者の公平な教育の機会、職業やリスキリングの支援、公的医療や、介護や福祉のサービス強化、環境や科学技術の支援、防災、食、とあげればきりがありません。
欧米がそうしてきたように、住宅はできるだけ長く残し、いまあるものを、最大限生かすようにするのが、国としても正しい循環になると思います。

では、私たちは今後どうすべきか

まずは、一人ひとりが「長く住み続けられる家とは何か」を考え、目先の便利さや新築の魅力だけではなく、家の本質的な価値を見直すことが重要です。住宅をただの消費財として扱う時代は終わり、未来の世代へと引き継ぐ資産と捉え、修繕やリノベーションを積極的に学ぶ姿勢が求められます。
また、行政の支援制度も「既存住宅の価値向上」へとシフトする必要があります。例えばリノベーションに対する税制優遇も、省エネ基準の強化と同時に必要だと考えます。そしてそれが最終的には、社会全体の豊かさにつながるのではないでしょうか。
私たちの建築家住宅手帖の活動も、すでにある建築家住宅を、不動産の仕組みを通じて活用し、社会に貢献したいと考えています。

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