物件解説
京都市内、縦と横の通りが交わる「碁盤の⽬」の⻄側に位置する千本通り。商店街として古くからのお店が並ぶ通りから⼀本⼊り、お寺に⾯し落ち着いた雰囲気の路地沿いに、この住宅は建っています。1階と2階とは⽩と⿊とのコントラストで構成され、2階の⿊で構成された部分が、まるで宙に浮いたような印象へとつなげています。2階テラスを覆うスチールの細い丸ルーバーは薄っすらと透け感があり、この家を象徴するアクセントにもなっています。
15 年ほど前、京都に移り住んできた家主のご夫婦は、正⾯はお寺の境内で視界が抜けているところや、⾃転⾞があれば京都市内を移動しやすい⽴地などが気に⼊りこの場所を選んだそうです。歩けばお寺に当たる京都の町。
お寺は暮らす⼈々の⾝近な存在となり、また建物や庭などは四季折々の表情を感じさせてくれます。古くからの町家⽂化が⾊濃く残る京都。細⻑い⼟地や、歴史的な景観を守るための様々な規則がある中、家を建てる事を考えた時、ご夫婦お⼆⼈が設計を依頼したのが建築家の⽮⽥朝⼠さんでした。
⽮⽥さんは京都⽣まれで京都に事務所を置く建築家。住宅を中⼼に店舗内装やリノベーションのプロジェクトなど経験豊富な⽅です。ご夫婦は、そんな⽮⽥さんの建築から感じさせる「光の陰影」と「⾃然の取り込み」にとても魅⼒を感じたそう。
設計を始める際、ご夫婦が依頼したのは「潔く、清い感じ」でした。これを受け、⽮⽥さんは、⽣活する上で必要なものをひとつひとつ整理。⽣活感が主張し、ノイズとならない潔い空間を作りました。
実現させるこだわりが随所にありますが、あえて私の視点で3 つ挙げるならば「スリット・フレーミング・中庭」でしょう。それらにより3 ⽅が隣地の建物に囲まれた敷地において、ただ明るい暗いや狭い広いではなく光や空間をシーンとして感じることが出来るような住宅になっています。
まず「スリット」は、1 階の収納や2 階の壁に⾒られます。⻑⼿の外壁に直⾏する壁が敢えて少し隙間を空け配置されており、それにより光は壁を伝い、そのスリットを抜けて、ある時間帯には家の奥まで陽の光を引込み、⻑細い町家的な構成のこの家に特別な時間を与えてくれています。
次に「フレーミング」、これは2 階のリビングを中⼼にテラス側とダイニング側それぞれとの間の壁が、まるで絵画の額縁のようにその先の⾵景を切り取り、不思議な奥⾏き感を作っています。光と共に移り変わる⽇常をフレーミングし、劇的に⾒せてくれているのです。そう感じさせる⼯夫の⼀つは、テラス側の窓の納まり。枠が壁に隠れ、ガラス⾯しか⾒えないように丁寧に設計され、壁の中に引き込まれていく⼤きな窓になっています。春には正⾯のお寺に咲く桜景⾊、冬には時折訪れる雪景⾊など、その瞬間が絵画となって描き出されます。
最後に「中庭」です。細⻑い敷地の真ん中より少し奥、1 階の寝室との間に建物の幅いっぱいの中庭があります。なんと1 階の寝室は、この中庭を通っていく離れのようなお部屋。独⽴性があり、中庭を望みながらゆっくりと休む事が出来る空間になっています。中庭上部には2 階のリビングとダイニングを⾏き来する渡り廊下があり、双⽅の部屋から中庭越しの何にも邪魔されない空を独り占めすることが出来ます。そこから朝⽇や⼣⽇が差し込むのはもちろん、時には⾬や雪などの⾃然の営みを家の中に囲い込み、⾃分たちだけのものとして味わう事が出来、とても贅沢な時間です。
1 階にあるお⾵呂は、ガラス張りによって隣地との間の庭、そして中庭へと開放された空間となっています。床から掘りこまれた湯⾈によって視線は地⾯に近く、窓を開けて外の空気を取り込めばまさに温泉にいるよう。
また、コンパクトな家ながら、服が好きなご夫婦に合わせ収納が充実。⽞関前の外部収納や⽞関内の収納も⼤容量、もともとは⾃転⾞も停めていたそう。キッチンや寝室も壁⼀⾯にある収納はワーロン紙が表⾯に貼られ、柔らかい印象であることに加えて、どこか京都らしい「和」の部分を感じさせます。こうした豊富な収納⼒が「潔い空間」へとつながっていることがわかります。
キッチンは、コンロとシンクが前後に分かれて、コンパクトにまとまりつつも作業台が広く使いやすい構成で、海外製の⾷洗器やオーブンなども完備しています。通り側に設けられた2 階テラスはテーブルとイスを出してティータイムを過ごせるくらいの広さがあり、ルーバーにより柔らかい光が差し込みます。⼀部には洗濯物⼲し⽤のパイプもあり、住まい⼿により様々な使い⽅が出来そうです。
もうひとつ、この家には「夜の⼀⾯」があります。ここまでお伝えした「スリット・フレーミング・中庭」が、陽の光から細かく計算し配置された照明によって、⽇中とは全く別の空間を作ってくれます。光の表情は様々。たとえば、前庭では⽵とともに⼀筋伸びる光、リビングではスリットからこぼれる光、ワーロン紙の内側からの柔らかな光、そんな光の表情がこの家のもう⼀つの顔となって、潔いだけではなく、時の流れを豊かなものとする過ごし⽅へとつなげる、これぞ建築家の住宅の醍醐味と納得させてくれる住宅です。
京都の町における建築家こだわりの「現代の町家」が⾒せる実⾯積以上の広がりを、是⾮現地で体感してみてください。
また、コンパクトな家ながら、服が好きなご夫婦に合わせ収納が充実。⽞関前の外部収納や⽞関内の収納も⼤容量、もともとは⾃転⾞も停めていたそう。キッチンや寝室も壁⼀⾯にある収納はワーロン紙が表⾯に貼られ、柔らかい印象であることに加えて、どこか京都らしい「和」の部分を感じさせます。こうした豊富な収納⼒が「潔い空間」へとつながっていることがわかります。
京都の町における建築家こだわりの「現代の町家」が⾒せる実⾯積以上の広がりを、是⾮現地で体感してみてください。