物件解説

日比谷線広尾駅から西に10分程、日赤通りから路地奥に入った閑静な住宅街を歩いてたどり着く、ここ「広尾の家」は、1989年、日本のバブル期に建築家 早川邦彦(1941-)によって設計された個人住宅です。2018年、ファイブス一級建築士事務所 蔵楽友美により、元の設計への敬意と、丁寧な読み取りにより、20年の時を経て、現在は賃貸住宅として「再生」されました。聖心女子大学キャンパスの新緑を借景に、ヴォールト屋根(※1)の家が、その姿を現します。

建築家、早川 邦彦(1941年 – )は、東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科後、イェール大学建築芸術学大学院修士課程修了。竹中工務店出身であり、1940年代前半生まれの建築家として、伊東豊雄、安藤忠雄、長谷川逸子らと共に、「野武士世代」と総称されています。建築家 槇文彦が1979年に発表した論考の中で、公共建築ではなく、個人住宅の設計を、自らの思想を発露させながら手掛けていた彼らのことを、「主をもたない戦国時代の野武士」に見立てて総称したのがきっかけです。早川邦彦は、日本のバブル期に、時代性を色鮮やかに表現しながら、所謂デザイナーズマンションの先駆けとなる、中庭のある共同住宅を数多く作り上げた建築家です。当時はテレビドラマの舞台にもなるなど、注目を集めていました。早稲田建築アーカイブス http://waarchives.org/person/033/ 鉄筋コンクリート造の壁と、鉄骨造の軽やかなヴォールト屋根(※1)が特徴的なグレイッシュな外観。外階段から直接2階のリビングダイニングにアクセスすることが可能です。

一歩中へ入ると、広いエントランスとダイナミックな大理石の階段が印象的です。敷地の形状に合わせて斜めに配置されたコンクリートの壁が、パースがかった空間を演出し、視線を奥へ奥へと導いていきます。階段との隙間に設けられた天窓からは燦燦と光が差し込み、エントランスに明るさと広がりをもたらしています。現在は、ベルギー人のご家族が住まわれており、ところどころに日本の工芸品がセンス良く配置されています。1階は主寝室を含む3室と、洗面・WC・浴室が配置されています。浴室の横にはコート(中庭)が設けられ、浴槽横のベンチに腰掛けながら緑を楽しむことができます。

現在は子供部屋として利用されているこの部屋は、元々は2部屋に区切られていましたが、壁であったところに開口を設け1室としたことで、マスターベッドルームとしても利用可能となり、多様な暮らし方に対応することができるようになりました。窓外には、コートの緑と、隣接する聖心女子大学キャンパスの緑を眺めることができます。現在の住まい手Rさんはこのコートを「日本庭園」と呼び、明け方、ここに座りながら日の出とともに緑茶をたしなむ瞬間がとても好きな時間なのだそう。メインベッドルームは、間接照明により柔らかな空間を演出し、また入口正面には壁を増設することで、ちょっとした工夫と配慮で、寝室の守られ感を向上させています。

大理石の階段を上がると、1階の静かで閉じた空間とは対照的に、ダイナミックな開口(窓)とヴォールト天井(※1)の開放的なリビングダイニングが広がります。ヴォールト天井に併せて特注の半円弧状の窓ガラスが設置され、屋根の軽やかさがより一層引き立っています。

鉄骨でできたヴォールト屋根は幾重にも重なり、その隙間から、隣接する緑が垣間見え、空間の広がりを演出します。時を追うごとに、光の差し込み方が変化し、空間の広がりが刻々と移ろいます。白く塗られたその壁は、光の陰影を静かに映し出し、建物の美しい形態を、より一層引き立てています。

While we deeply enjoy the perfect balance of light and shadow, there are very few places that get this balance right.
ー明るさと影のバランスがとても優れているところが、私たちは気に入っています。ー

こう話す現在の住まい手Rさん。初めてこの広尾の家を訪れた時の印象は、「美しい採光と緑に囲まれたオアシス」だったそう。友人達を招いての夕食時に、緑の木々の借景と、そこから聞こえる蝉の鳴き声は格別だと言います。建築家が設計した数多くの住宅も、売却されてしまえばその多くは築年数や面積など、画一的な基準によって価値が決まってしまっているのが不動産流通市場での現状です。でもこうした、数字では拾うことの出来ない建築家住宅の、隅々まで考えつくされたデザインの価値や美しさを、きちんと拾い、繋いでいくこと、そしてそれを評価し、流通させることも、建築と不動産のあいだにあるひとつの課題であり、この「広尾の家」の再生は、建築家住宅手帖サイト立ち上げの、切っ掛けの芽となったプロジェクトです。

※1:ヴォールト:アーチを平行に押し出した形状(かまぼこ型)を特徴とする天井様式および建築構造の総称である。日本語では穹窿(きゅうりゅう)と訳される。

公開日 : 2020年11月11日 / 更新日 : 2020年11月11日
取材・文: 安藤美香 / 撮影: 千葉正人

公開日 : 2024年12月16日 / 更新日 : 2024年12月20日

建築家紹介

蔵楽友美

間取り図

物件データ

建築

物件名
広尾の家
所在
東京都渋谷区広尾2-17-24
家族構成
-
設計
早川邦彦建築研究室
構造設計
-
施工
-
竣工年
1989年01月
構造
RC造(一部鉄骨造)
規模
地上 2階
面積
敷地面積 243.86 ㎡
建築面積 108.43 ㎡
延床面積 196.99 ㎡ (1階 / 108.43 ㎡ 2階 / 88.56 ㎡)
設備
-
主な外部仕上
-
主な内部仕上
-

不動産

価格
-
交通
日比谷線「広尾駅」駅 徒歩10分
権利
所有権
制限
-
間取り
4LDK
インフラ
-
現況
居住中
引渡
-
備考
GAHOUSES26に掲載。
借りたい・買いたい・使いたい