物件解説

東武東上線の新河岸駅より線路と並行に歩くこと15分ほど、神社脇の澄んだ空気を感じつつ進んだ先に、「空の家」は建っています。道を挟んで南東側隣地より一段高く、線路そばの角地であることも相まって視界が開け、空が大きく感じられます。

外観はその空を取り込むように開けられた2階の連続窓と、1階のコンクリートのマッシブなボリュームの対比が印象的で目を惹きます。
この住宅は約15年前に、リオタデザインの関本竜太氏の設計によって建てられました。関本氏は、1971年生まれ。日本大学を卒業後、設計事務所での実務経験を経てからフィンランドへ留学します。そこで建築の学問を超えた生活哲学のあり方に感銘を受け、帰国後にリオタデザインを設立、住宅など多くの建築の設計に携わってきました。関本氏の「間取りのデザインではなく、すべてが溶け合い調和した秩序や道筋をつくる」という思想は、建物はもちろんクライアントと十年来の友人のような関係性であることにも繋がっているように感じます。
クライアントご夫婦と関本氏との出会いは、当時ご夫婦がマンションの購入を含め検討していた時、同年代のご友人が建築家で建てるという話を聞いたことをきっかけに、自分たちにも自由な家作りが出来る可能性もあると気付き、紆余曲折の検討を進めていく中でのこと。
最初にご夫婦に会った際、とても話が合い、その場で関本さんは「私にやらせてください!」とお伝えしたそうだ。ご夫婦も関本さんの誠実な振る舞いに想いが通じていると感じ、設計が始まりました。

この住宅の特徴は、まず何といっても2階の大きなワンルーム空間、空を望むパノラマ大開口です。夏と冬の日差しの角度を考慮し伸ばした庇により、空が水平のフレームで印象的に切り取られ、開放的でありながら落ち着く空間になっています。

勾配天井にすることで北側のハイサイドにも窓を設けつつ、等間隔に配置された登り梁が空間にリズム感を与えています。また床に座っての生活を意識し、家具や開口部の高さなど、丁寧に設計されています。

1階のフロアは、ご主人の趣味のビリヤードルームを中心とし、収納や玄関が配置されたシンプルな構成。ビリヤードのキューを引いても壁にぶつからない様に寸法が計画されています。ビリヤード台を、大きなテーブルに変えワークスペースにしたり、客間やギャラリースペースとして使用してもよさそうです。

リビング脇のアトリエスペース。大きなワンルーム空間の中で上手くコーナーを使い、籠れるようなスペースを実現。自分の好きなものに囲まれながら、ここで佇む時間が奥様の楽しみの一つなのだそう。当初はご夫婦の要望にはありませんでしたが、関本氏はお二人と会話をする中で、奥様の想いを汲み取ってこのスペースを提案しました。

鉄筋コンクリート造の1階が木造の2階部分を支えつつ、裏側の土地の土留めの役割も果たしています。2階のバルコニーが飛び出していることで庇になり、幅の広い雨除けのスペースになっています。道沿いの花壇はご夫婦によって丁寧に手入れがなされ、彩りを添えています。
ご夫婦は賃貸で生活していた際、個別の部屋ごとに締め切ることがほとんどないことに気づき、間仕切りを作らずお互い気配を感じられる空間を「箱のような家」と表現して要望を伝えたそうだ。その「箱」にはご主人の趣味であるビリヤードをするための開けたスペースという意味合いもあったとのこと。
関本氏はそれを聞くとすぐに頭の中にイメージが浮かび、シンプルで箱的なワンルーム空間を骨格として収納や水回りやアトリエなどをそこに肉付けしていくように設計を進めていったそうだ。

家に支えられ、共に暮らす
この家に住みはじめ、ご主人は出勤前の朝焼けを、奥様は線路越しの星空や、空気が澄んだ冬の時期に遠くに見える富士山を家から眺めることが楽しみな時間になりました。それはこの家が日々を豊かにしてくれている体験でした。
また、体調を崩し動くのが辛いときも、寝室、キッチン、トイレ、お風呂が一直線につながっている動線計画により乗り越えられ、家に支えられているという安心感があったと言います。そして、ご夫婦もそれに応えるようにこの家をとても大切にして暮らしてきました。

筆者は今回の取材で空の家を訪れた際、築15年と思えないほど、設備や素材の痛みがほとんどないことに驚きました。そのことをご夫婦に尋ねると、床にワックスを時々かけるなどしているものの、特別なことはしておらず、汚れたらすぐキレイにするという習慣の賜物とのこと。浴室の扉は木製ですが使用後、ガラス含め水を必ずふき上げているため、カビなどもありません。さらに自らクリア塗装を施し、汚れを防いでいるそうです。

線路が近いため電車の音は聞こえるものの、うるさいとは感じたことはなく、朝の始発で時間を把握できるなど生活のリズムの一つになっているとも話してくれました。
最後に「自分の好きなものが詰まった宝箱的なところも家ってあると思うんです」と奥様。生活に寄り添った設計から生み出された箱的なシンプルな空間構成は、新しい住まい手の「楽しさ」や「豊かさ」をも受け止めることが出来るでしょう。
この家の新しいストーリーが、これから始まろうとしています。
公開日 : 2022年04月27日 / 更新日 : 2022年04月28日
取材・文: 佐竹雄太 / 撮影: 千葉正人

 

 

公開日 : 2024年12月16日 / 更新日 : 2024年12月24日

建築家紹介

関本竜太

間取り図

物件データ

建築

物件名
空の家
所在
埼玉県川越市藤間
家族構成
ご夫婦
設計
リオタデザイン
構造設計
森田智之(森田建築構造事務所)
施工
堀尾建設
竣工年
2007年05月
構造
RC造・木造
規模
地上 2階
面積
敷地面積 90.9 ㎡
建築面積 63.22 ㎡
延床面積 95.49 ㎡ (1階 / 39.44 ㎡ 2階 / 56.05 ㎡)
設備
-
主な外部仕上
-
主な内部仕上
-

不動産

価格
3100万円
交通
東武東上線「新河岸駅」駅 徒歩15分
東武東上線「上福岡駅」駅 徒歩19分
権利
所有権
制限
-
間取り
2LDK
インフラ
-
現況
居住中
引渡
相談
備考
-
借りたい・買いたい・使いたい