以前のコラムで、日本の住宅が欧米に比べて短い期間で取り壊されてしまうことについて書きました。ヨーロッパやアメリカでは、築100年を超える住宅が当たり前のように売買され、所有者が変わりながら使い続けられています。今回は少し視点を変えて、お隣の台湾について考えてみます。私はこれまで何度も台湾を訪れていますが、日本が学ぶべき点は多いと思います。
煙草工場として使われていた巨大な歴史的建造物を遺す
台北の中心部に、「松山文化創園区」という大きな文化施設があります。もともとは日本統治時代の1937年につくられた「台湾総督府専売局松山煙草工場」です。約6.6ヘクタールという広大な敷地に、製造工場や倉庫、事務所だけでなく、庭園や浴場も備えた施設でした。
1998年に操業が停止された後、台北市によって史跡や歴史建築に指定され、2011年から一般に公開されています。
私も訪れましたが、興味深いのは、古い建物を保存して鑑賞するだけの場所ではないことです。展示、ショップ、イベントなど、現代の都市生活を補完するコンテンツが企画運営されています。
そのひとつが「Not Just Library(不只是図書館)」。煙草工場時代の工員が使用した浴場を、建築家ジョニー・チウ率いる JC Architectureらが改修し、2020年に図書スペースとして生まれ変わらせました。浴槽などの形状もそのまま遺したデザインにしつつ、新しい空間を提案しています。
なぜ台北に古い建築が残っているのか
台湾は1895年から1945年まで、約50年間、日本の統治下にあったのですが、その間、庁舎や学校、工場、鉄道施設、官吏や教員のための集合住宅が数多く建設されました。だから台北を歩いていると、瓦屋根を載せた木造平屋の、日本に似た風景に出会います。植民地統治という複雑な歴史のなかでつくられた建物ですが、事業者やクリエイターたちが、ただ壊すのではなく、現代社会のなかで使いながら考えて行こうとする姿勢が、台湾にはあります。その価値をつくっていくのは、自分たちなんだ、という意思をも感じます。台湾では1982年に「文化資産保存法」が制定され、その後も改正を重ねてきたそうです。個々の文化的建築の修復だけではなく、周辺環境や文化的な関係性も含めて、保存・再生させていく方向へと政策が広がっているようです。
90年前の木造住宅に暮らす、ジョニー・チウ
先程の、Not Just Libraryを手掛けたジョニー・チウ自身も、古い木造平屋の住宅を自ら取得し、大幅にリノベーションし、使い続ける実践をしています。昔の状態に完全に戻すのではなく、架構や建具などが積み重ねてきた時間を感じさせつつ、素材や設備で、現代性を存分に表現しています。
この住宅は、2019年に、国際的なインテリアデザイン賞「INSIDE-World Festival of Interiors」において、「World Interior of the Year」を受賞しました。珍しい古民家再生という面と、現代の暮らし方を考える場としても評価されました。
建築を遺す方法を、アジアからも学ぶ
私たちは比較的、建築の保存再生は欧米を参考にします。しかし、建築の構法だけでなく、文化や風土が比較的近いアジアに、共有できる課題が多くあります。そのひとつ、台湾には、木造の住宅があり、高温多湿で台風や地震もあります。日本と同じではありませんが、共有できる課題は多くあります。
建築家住宅手帖も、住宅をただ博物館のように保存することを目指していません。次に引き継ぐ方が承継するにも、多くの方が、修繕工事を計画し、住宅ローンを利用し、住みながらさらに時間を積み重ねていきます。
建築家住宅を遺すために、欧米だけではなく、台湾をはじめとしたアジアの国や地域にも目を向けていきたいと思います。きっとそこには学ぶべき知恵があるはずです。

