私たちが日常的に口にする「建築」という言葉。その意味を改めて問われると、どう感じるでしょうか。普段はあまり使わないワードかもしれません。「家」「住宅」「建物」といった言葉のほうが、より一般的でしょうか。
では「建築」とは、それらの言葉の言い換えなのかというと、やはり少し違ったニュアンスがあります。いまから、歴史的な建築家たちが実際に語った「建築」というものに耳を傾け、その奥深さを少しだけ感じてみたいと思います。

歴史的な建築家たちの言葉に触れてみる

100年前に活躍した近代建築の巨匠のひとり、ル・コルビュジエが、建築とは「住宅は住むための機械だ」と語ったことは有名です。「機械」というと、現代では少し冷たく固いイメージがありますが、当時は「古い慣習やルールに囚われない、合理的で自由なもの」というニュアンスが込められていたようです。
ここで言う「古い慣習やルール」というのは、過去の様式(当時主流だったボザール教育での古典主義等を基盤としたもの)をただ模倣する装飾や、使いやすさや心地よさよりも、形式を優先する間取りや窓の配置などを指します。19世紀までの住宅は、貴族や富裕層のために重厚な外観をもち、「威厳」や「格式」が尊重されていました。
また、近代建築のもうひとりの巨匠ミース・ファン・デル・ローエは、「Less is more(より少ないことは、より豊かなこと)」という名言を残し、鉄骨やガラスといった工業製品を用い、静けさに包まれた空間を作りました。
20世紀初頭、建築はまだ石造りやレンガ作りが主流で、重厚さや細かな装飾に歴史的価値がありました。そんな時代の都会景観のなかで、彼の建築はまるで湖畔にいるような安らぎを感じさせます。
他にも多くの建築家が語った言葉があります。いずれも抽象的な言葉に聞こえるのですが、それぞれの状況において「建築がどうあるべきか」を真剣に考えた結果としての言葉なのです。

建築に込められた社会的な意味

これらの言葉からわかるのは、建築家たちにとって建築とは単なるモノではなく、社会に語りかけるメッセージであり、現代とはまったく異なるその「時代」に対する応答でもあったのです。
こうしてみると、建築家たちは「かたち」だけではなく、「意味」や「社会性」についても語ってきたことがわかります。建築は文化であり、倫理でもあり、公共性を伴うものだという視点です。
たとえば現代の住宅においても、地域性への配慮や、持続可能なあり方、省エネ性や災害対応がより求められるようになってきました。これは建築が、そこに住む個人だけでなく、社会全体と関わっていることの証でもあります。

豊かな空間で当時を思い起こす

ではあえて問いますが、「建築」とは、私たちが住むという目的を超えた、高尚な概念なのでしょうか。特に建築家住宅手帖で取り扱う住宅は、そうなのでしょうか。
わたしがこの数十年にわたり、実際に現地を訪れた世界中の名作と呼ばれるたくさんの建築家住宅を見てきましたが、時代ごとに異なる意味や社会性が語られていても、共通しているのは、「空間の豊かさ」でした。日差しの入り方、風の抜け、素材の手触りや香り。そうした空間に身を置いたとき、人が心地よさや、ある種の感動を覚えます。やはりそれが、建築として長く愛され続ける理由です。
さらにそこに居ながら、先に述べた「当時の時代性」を思い起こすこともまた、体験を豊かにしてくれるものだと、私は思います。

 

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