
冬の寒さ、夏の暑さ——古い住宅に暮らすとき、多くの人が直面する課題です。特に、建築空間の美しさや、素材の味わいに惹かれて選んだ建築家住宅だからこそ、性能面が気になる方も多いのではないでしょうか?
今回は、実際に現場で断熱工事を手がける沼尻隼人さんと、NENGOの取り組みを社外に伝える広報担当の石橋奏珠さんに、古い家の断熱をめぐるあれこれについてお話を伺う、前後編企画の前編です。(後編は近日公開)
住宅としての快適性を高めつつ、設計当時のデザインを損なわないための工夫とは? そして、住み継ぐことの意味とは?
左:沼尻 隼人 Hayato Numajiri
地球防衛隊 マネージャー|ゼネラルマネージャー
2013年、断熱・耐火被覆工事の営業・施工管理担当としてNENGOに入社。以後、たしかな現場の知識と丁寧な対応力を武器に2018年に地球防衛隊マネージャーへ就任。2023年からは新規事業として小規模修繕(ドローン・ロープアクセス工法)、断熱改修や内装工事など、幅広いニーズに応える工事領域を展開中。
右:石橋 奏珠 Kanami Ishibashi
結部 マネージャー|広報・採用担当
2021年、事業管理部として経理・労務・総務をはじめとした幅広いバックオフィスを担当。 2023年には広報と採用を担う新部署「結部(むすぶ)」を立ち上げ、2025年に最年少でマネージャーに就任。人と人、街と街、街と人を“むすぶ”役割を担い社内外の関係性つくりを支えている。
NENGOという会社について
―――今回はインタビューをお受けいただきありがとうございます。まずは、NENGOについてご紹介いただけますか?
沼尻さん(以下敬称略) 株式会社NENGOは、”100年後の街つくり”をミッションに、建築の施工を中心に、不動産業や、建材の販売、特にポーターズペイントという塗料の代理店をするなど、幅広く活動しています。現在43期目の会社で、元々はオリエンタル産業という名前で、鉄骨造建物の吹付の耐火被覆施工や、吹付の断熱工事を専門にやっていた会社なんです。
―――そうだったんですね! 取り組まれていることがとても新鮮なので、てっきり最近設立された会社なのかと思っていました。
石橋さん(以下敬称略) よく言われます(笑) 実は、現代表が新しい事業を始めたり、創業30周年を機に社名を変更したり、紆余曲折あって現在のような形になりました。内装工事やリノベーション工事も手がけるようになり、ポーターズペイントの取り扱いや不動産事業もやっています。
沼尻 そういう意味では、もともと吹付断熱工事を行っていた経緯もあって、比較的早い段階から断熱に対して強い関心を持ってきた会社だと思います。
「築古」。だからこそ断熱にも専門知識が大事に
―――長く断熱に取り組まれているNENGOの皆さんですが、築古の建物への断熱については、どのように取り組まれていますか?
沼尻 私が現場に出るようになって十数年になりますが、その間にも断熱に求められるものは大きく変わってきました。特に、リノベーションという考え方が一般にも浸透してきたことで、築古住宅に関する相談も増えています。NENGOとしても「100年後の街つくり」を掲げている以上、新築と同様に、築古の建物への対応も非常に重要なテーマです。
築年数が経った建物では、ただ新しい技術を持ち込むだけでは不十分です。現場ごとに異なる条件や制約があるため、その状況に即した最適な方法を見極め、提案する専門性が求められます。特にマンションよりも戸建ての方が難しさがあり、全体として見ると、戸建ての断熱改修はやや遅れている印象ですね。
―――断熱改修が特に築古戸建てで難しいのは、どういった理由からでしょうか?
沼尻 大きな理由は「やってみないと分からないこと」が多い点です。断熱工事では、床・壁・天井に断熱材を施工していきますが、築古の場合は解体して初めて分かる不具合や想定外の事態がしばしばあります。たとえば、天井が劣化していて断熱材を載せると抜けてしまうとか、床下や天井裏の作業空間が狭くて施工自体が難しいといったケースですね。作業員が安全に移動するためには一定のスペースが必要ですし、梁に施工時の荷重をかける場合にはその強度の確認も不可欠です。
―――見えない部分の状態や構造が、実際の施工のハードルになるんですね
沼尻 そうなんです。断熱材にも重さがありますし、そもそも古い住宅は断熱施工を前提として設計されていない場合が多い。だからこそ、事前の調査がとても大事になります。加えて、断熱方法はなにも断熱材だけではありません。「内窓」を設置することで断熱性を高める手法もあります。ですが、これも築古のデザイン性の高い住宅では、窓の大きさや形が現代の規格と合わず、ガラスやサッシを特注しなければならないこともある。そうなると当然、費用もかかります。
だからこそ、その家にとって、また住む人にとって「本当に必要な断熱とは何か?」を見極めることが重要なんです。建物の状態と家族のライフスタイル、その両方を丁寧に見ながら、最適な手法を選び取る。そこに、私たちのような専門家が介在する意味があると考えています。
小まとめ
古い建築家住宅を、快適に住み継ぐために——。NENGOの沼尻隼人さん、石橋奏珠さんのお話から見えてきたのは、「断熱」という技術が、単に性能を上げるためのものではなく、その家の個性や歴史を活かしながら、家族の暮らしを作っていく手段であるということでした。築古住宅には、一見すると分からない構造の癖や制限が数多くあり、だからこそ、現場ごとに知見と経験を活かした判断が求められます。断熱材を入れるだけでは済まない。ときには窓を特注し、ときには構造の補強まで見据えながら、「その家に合った方法」を探ることが重要なのです。
では実際には、どんな家でどのような工夫がなされているのでしょうか?
次回は「その素敵な家に、ちょうどいい断熱を——NENGO沼尻さん石橋さんインタビュー(後編)」と題して、より具体的な事例や、断熱工事の考え方を教えていただきます。