物件解説

渋谷駅西口から歩くこと11分、鉢山公園のほど近く、渋谷のビル群を望む坂の上にとある住宅が佇んでします。古道具好きの奥様、釣り好きのご主人のお二人が住む、3階建ての家です。
今回は建築家・金子満の建てた『舘崎邸』と、奥様が語る、ご家族が歩んできたストーリーをご紹介します。

 

建築家・金子満(1942-2011)は東京生まれ。早稲田大学理工学部を経て、圓堂政嘉(エンドウマサヨシ)に師事します。その後、黒川雅之建築設計事務所を経て、1970年、弾設計一級建築事務所を創業します。住宅の代表作はこの住宅と同時期に竣工した「八雲のスタジオ(1990)」。自身でも精力的に設計活動を行っていた一方で、もうひとつ、日本の建築に多大な功績を残した人物でもあります。実は金子満は、福岡のホテル「イル・パラッツォ(1989)」でイタリアの巨匠・アルド・ロッシ(1931-1997)と、東京・西麻布の商業施設「The Wall(1990)」、札幌の飲食店「ノアの箱舟(1988)」ではイギリス人建築家の奇才、ナイジェル・コーツ(1949-)と共同設計しています。海外の著名建築家の、日本における陰の立役者でもあるのです。

この家は現在70代の舘崎さんご夫婦の二人暮らし。昔から渋谷で飲食店を営んでこられたご夫婦で、実はこの場所に建てる家としては2代目なんだそうです。
「前の家は2軒の家を廊下でつなぐように改築した家で、結構面白い家だったんですよ。オレンジページとか生活系の雑誌に載ったりもして、気に入っていました。その頃からすでに”家との生活を楽しむ”という感覚は持っていました。でも残念ながらその家は、暗いし寒かったんですよ。
それで、家を建て替えようという話になりました。最初は林業系のハウスメーカーさんをいくつか回りました。でも見ていくうちに、素敵な家はあるけれど、これは大きな敷地にちょこんと家を作れる環境だからこそ、素敵なんだなと気づきました。鉢山町は都会の密集した住宅街にありますから、それに合わせた家を建ててくれる人がいないかな、と思っていました。そんな時、金子さんとは友人の紹介で知り合いました。当時、近所に金子さんの事務所があって。そうしたご縁で、共通の知人がいたんですね。」

この家はちょっとした段差や小窓など、小さな余白のスペースがたくさんあり、まるで家のあちこちに小さな飾り棚があるようです。古道具や茶道がご趣味の奥様。掛け軸や布、器、置物など、季節のものを飾ったりして、この家での暮らしを楽しんでいます。
「私がもともと、季節のものを置いたり飾ったりするのが好きなんですよ。やっぱりそこは金子さんのすごさですね。家族でやるパーティーなんかにも来ていただいたり、何度も通ってくださって。”みんなの生活の仕方を知りたい!”とおっしゃって、私と主人はもちろん、当時同居していた子供たちにまでみっちり話をお聞きになっていました。」

「建てたときに特にこだわったのは2階の茶の間ですね。リビングとダイニングを分けていないんです。そして元々、ダイニングテーブルは掘りごたつになっていました。キッチンは、私が料理をしているときに、団らんしている家族と目が合うように、床の高さを下げてあります。
今は、孫ができて家に遊びに来るようになって、掘りごたつの段差がちょっと危ないかなと思って床を張ってしまいましたが、当時の空間を尊重して、テーブルも椅子も、家具屋さんに足を切ってもらって、できるだけ低くしてあります。
みんながここに集まってテレビを見たり、しゃべったり、ワーワーやっている、明るくて居心地のいい部屋です。」

「私はもともと、息子を自由学園に通わせていたくらい、フランク・ロイド・ライトのファンだったので、ライトの和風版を作ってほしい、とお願いしたんです。そうしたら金子さんが乗ってきてくださって。私たちの要望をたくさん取り入れてもらったので、実はこの家は金子さんの普段の作風とは、全然違っているんですよ笑」

茶の間の横にある障子戸には、個性派ぞろいの和紙が張られています。こんなところにも、家での暮らしを楽しむ工夫がありました。
「この障子も、ちょっと面白い和紙を見つけるとそれを取っておいて、私が自分で張り替えたりしています。文字の入っているのは、たしか骨董の包みになっていた和紙なんです。気に入ったのでしわを伸ばして張ってみました。」

3階には寝室が2部屋。2階と3階を結ぶテラスには、通称『ロミオとジュリエット』のバルコニーがあります。
「このバルコニーも、当時大学生で外国文学を専攻していた娘の話を基に、金子さんがイメージして作ったんです。」
こんなところにも、建築家のヒアリングの深さや、ご家族との仲の良さがうかがえます。

「金子さんは階段が好きらしいんですよ。この家は階段を介していろんな空間がつながって行くように作られています。玄関の様子が見えたり、趣味のものをいじっている主人が見えたり。だから外に出すときは金子さんはこの家を”階段の家”と呼んでいたようでしたね。」

一階には奥様のご趣味のお茶室と和・洋の個室が2室ありますがあります。隣地との高低差があるので、音もとても静かです。
「設計にあたって金子さんは”お茶室はあまり詳しくないから”といって何度も京都に行ってお茶室の研究をされたようでした。」

「明るくしたり風通しを良くするためにとにかく窓がおおいですし、和の要素を取り入れてもらった家ですから床も段差が多くて、すごく立体的です。それがいいんですけれど、掃除は大変なんです笑」と言いつつ、奥様はなんだかうれしそう。

「私は面倒という言葉が嫌いで、手間暇を楽しむ事はすごく大切なことだと思っているんです。家や、置いてある道具を丁寧にあつかったり、手を入れて楽しく使っているというのは、家族もよく観ていてくれたんですね。テラスのデッキや洗面台の蛇口は息子が修理してくれましたし、孫もこの家に落書きしたり、シールを貼ったりというのは一度もなかったです。ものを大事にしていることは、子供にもきちんと伝わるんだなと思っています。」

「私たちも、好きで建てたこの家を20年余り、面倒を楽しみながら、大事に大事にして来ました。今でもすごく居心地がいいんですけど、夫婦二人、70代になってくると生活が変わってきました。そこで、この家をもっとよく使ってくれる方にお譲りしたいと思ったんです。」

家のことを話していると止まらなくなる、と語る奥様。お話を聞いていると、この家がいかに愛されてきたかがひしひしと伝わってきます。
渋谷区鉢山町に建つ階段の家。
そこには住まい手に対する建築家の想い、そして建築家住宅に対する住まい手の想いが幾重にも積み重なっていました。ある家族に愛されたこの家で、あなたも面倒を楽しみ、暮らしを愛してみませんか?
公開日 : 2021年01月29日 / 更新日 : 2021年01月29日
取材・文: 川原聡史 / 撮影: 千葉正人

公開日 : 2024年12月16日 / 更新日 : 2024年12月24日

建築家紹介

金子満

物件データ

建築

物件名
舘崎邸
所在
東京都東京都渋谷区鉢山町3
家族構成
夫婦+子供二人
設計
弾設計株式会社
構造設計
-
施工
-
竣工年
1998年01月
構造
木造、鉄筋コンクリート造
規模
地下 1階 地上 2階
面積
敷地面積 137.77 ㎡
建築面積 61.27 ㎡
延床面積 169.21 ㎡ (0階 / 61.27 ㎡ 1階 / 55.47 ㎡ 2階 / 52.47 ㎡)
設備
駐車場(1台)、茶室、床暖房
主な外部仕上
-
主な内部仕上
-

不動産

価格
22,500万円
交通
-
権利
所有権
制限
市街化区域、第2種低層住居専用地域、建蔽率60%、容積率200%、準防火地域
間取り
4LDK+納戸
インフラ
-
現況
居住中
引渡
居住中
備考
-
借りたい・買いたい・使いたい