物件解説
JR磐田駅から北へ。閑静な住宅街である富丘の一角に、この住宅はあります。路地を進んでいくと、青空に映える、朱いテラコッタタイルの中庭と、白い箱状のヴォリュームの迷路のような家が現れます。
「連続中庭」と名付けられたこの家には、2つの建物と、6つの中庭があります。
この家を設計したのは「オンデザインパートナーズ」を主宰する、建築家・西田司。
西田司は1976年生まれ。横浜国立大学を卒業後、大学院在学中に保阪猛とともにSPEED STUDIOを共同設立します。2004年にオンデザインパートナーズを設立し、設計活動やまちづくり等を行う傍ら、現在は東京理科大学建築学科で准教授を勤めています。
母屋の玄関は迷路のような中庭を進んだ中ほどにあり、廊下を少し進むとLDKがあります。外の複雑さとは一変し、シンプルな矩形の空間が目に飛び込んできます。大きく開けられた窓からは、中庭を介して、柔らかな光が差し込んできます。
旗竿地では一般に、周りを住宅に囲まれてしまうため、自分の家の庭にもかかわらず、周囲の目を気にしなくてはなりません。しかしこの家では、窓の向こうに広がる中庭は壁に囲まれており、周辺の視線を遮ってくれます。壁からの囲まれ感がないのは、400㎡もある広い敷地を存分に生かした構成と、絶妙な高さ設定のたまものです。
キッチンの背後には、中庭に面した大きな窓があり、オリーブの木を見ることができます。LDKの天井はやや低く抑えられ、南北の大きな窓に向かって、自然と視線が抜けてゆきます。
1階にはほかに寝室と水回り、大きなウォークインクローゼットがあります。居室のそれぞれから見ることのできる中庭にはそれぞれ個性があり、ウォーターコートと名付けられた水盆の庭があったり、ベリーコートと名付けられた植栽が植えられた庭があったり、ウッドデッキがあったりします。
玄関脇の階段を上ると、2階には子供部屋があります。この部屋からも中庭が見え隠れします。
もう一棟の建物は、元々美容師として働いていた奥様が、ご友人や知人を招いて美容室として使っていたそうです。明るく、さわやかな印象のカットスペースと、少し暗くて落ち着くシャンプースペースがあります。
「連続中庭」ができるまでー所有者インタビュー
―――この家を建てたのは、転勤から戻ってきて「どこかでそろそろ落ち着こうかな」と考えた時でした。当時はとにかく「家を建てたい!」と、建築の雑誌をたくさん買って、「あ、この人かっこいいな」と思って、イメージを膨らませていました。
実は西田さんに連絡を取った時も「こんな有名な方が、本当に私たちの家を建ててくれるんだろうか?」と思いながらお願いしたんです。
ーーー相談してから工事が始まるまでは、1年以上の時間をかけていたと思います。
元は西田さんのスケッチから始まって、図面や模型が出てきて。
設計が始まった当初は、あまり広い家はいらないなと思っていたので、今でも、ほとんど平屋の中に庭が点在するこの構成は、西田さんがよく考えていただいたなと思っています。
ーーー当時は車で10分くらいのところに住んでいたので、しょっちゅう現場を見に来ていて、基礎の出来上がりを見た時は「あら?小さいかな?」と思ったんですが、建ってみるとこんなに解放感があるのかと驚きました。とにかく日中は明るい家ですね。この辺りは風が強いんですが、中庭が干渉帯になって、心地よい風にしてくれます。
中庭には、夏場はプールを出したり、秋にはテントを張ったりして、子供たちがよく遊んでいました。建てた当初はよくティータイムをしたり、BBQをしたりしていましたね。壁が建っていて周りの視線が気にならないので、自由な使い方ができます。
ーーー庭が充実しているので、外にどこかに出かけなくても、子供たちは公園みたいな使い方をしていましたね。バトミントンや壁打ちテニスや大縄跳びをしていました。そのほかにも町内会のお祭りのときには、屋台を庭に設置して、近隣の方たちとお酒を飲んだりと、人がよく来る庭でしたね。来てくれる人はみんなうちのことをほめてくれました。「ここは磐田じゃないみたい!」とよく言われましたね。
まるでパティオ(*1)のような中庭が連なり、明るく心地よい風が吹き抜ける「連続中庭」。2棟の建物は、家と、職住近接の事務所や趣味の書斎、離れとして使うこともできそうです。あなたも次の住人になって、中庭でティータイムやバーベキューを楽しんでみませんか?
*1パティオ:スペインやラテンアメリカにみられる、邸宅の中庭。タイル敷きで内部と一体に使うことが多い。
公開日 : 2022年09月12日 / 更新日 : 2022年09月12日
取材・文: 川原聡史 / 撮影: 青木遥香