建築家住宅を数多く手がけた、大原工務所の前代表である大原彰さんにお話を聞くシリーズの第2回。

建築家住宅の価値は、完成時の佇まいだけでは測れません。むしろ、その後どのように手を入れ、住み継がれていくかによって真価が問われます。大原さんが繰り返し語るのは、「建てた人間が、その後も責任を持つ」という姿勢でした。今回は、大原工務所が実践してきたメンテナンスの考え方と具体的な取り組みについて伺いました。

「上棟式」から始まる、その後の関係

―――大原さんは、上棟式を大切にされていると伺いました。それはメンテナンスとも関係があるのでしょうか。
大原さん
ありますね。私はよく「簡単でもいいから上棟式をやりましょう」とお話します。その時に職人をみんな集めて、「こういう人たちでこの家をつくっています」と施主に紹介するんです。そうすると、建て主の意識が変わります。それが後々、家が完成した後も「あの時の職人さんが来てくれた」と安心してもらえる。
―――なるほど。完成後の関係性まで見据えているのですね。
大原さん
そうです。職人にとっても同じです。「あの時の家だね」と言って、喜んでメンテナンスに行ってくれる。長く付き合っていくためにも、そういう関係がないと、後々ちぐはぐになります。中には私の父の代のころから何十年もお付き合いさせていただいている方もいますから、「あの時の人だ」と信頼していただくのは、私たちにとってもうれしいことです。

 

建てたときの想いをつないでいく

―――建てた人が長くかかわるのも、大原工務所の大きな特徴かもしれませんね。
大原さん
大手のハウスメーカーさんは、完成するとメンテナンス部門に引き継がれますよね。それはつまり建てた人ではない、別の人が行く。うちは違います。基本的には、建てた時の職人が行きます。
建てた人間であれば、その時に交わした会話や設計の意図を覚えている。「なぜこうしたのか」を理解している人間が直す。特に建築家住宅ですから、設計した人の意図や、建て主が何を求めていたかが、メンテナンスにも反映されるのが大事です。長く同じ人間がかかわるということは、そこが一番大きいと思います。

 

「必ず連絡がある」という信頼

―――メンテナンスでの実際の対応は、どのようなものが多いですか。
大原さん
長いお付き合いをしている方からは「ちょっと調子が悪い」という連絡が必ず来ます。小さなことでも、行って、見ます。そういう気軽な関係ができているのが大事ですね。
―――住み継ぎの際もかかわられることがあるのでしょうか。
大原さん
はい。時と場合にもよりますが、引き続きかかわらせていただく機会もありますし、その方が良いな、と思うことも多いです。例えば、住まい手が変わると、以前の注意事項が伝わっていないことがあります。小さなお子さんには扱いづらい建具など、知らないと危険な場合もある。そういうことを改めて説明できるのが、継続的に関わっている強みです。

 

30年の修繕計画を渡す

―――これから建築家住宅を持つ方が、メンテナンスについて考えるとき、どんな風に考えるのが良いでしょうか。
大原さん
大原工務所でやった仕事では、最近は「30年の流れ」を作ってお渡ししています。5年ごとにどんなメンテナンスが必要で、どのくらい費用がかかるか、現在の段階での見通しを概算で示すんです。
―――なんと。それは安心ですね。
大原さん
10年経って突然「外装にこれだけかかります」と言われたら驚きますから。あらかじめ知っていれば備えられる。給湯器やエアコンも必ず壊れます。今は家を維持していくために手を入れる習慣や経験がない人も多いですから、若い方ほど、その意識が薄いと感じます。だからこそ、今後は絶対に必要だと思います。

 

性能を向上させる改修で未来へ

―――大原工務所では改修も手掛けられていますが、印象的な事例はありますか。
大原さん
例えば、高橋公子さん設計の「管の家」は、所有者が変わったタイミングで改修をしたんですが、断熱性能が当時は弱かった住宅に外側からもう一枚断熱を重ねました。冷暖房もPSヒーターを中心に見直しました。特に1階2階がつながった家ですから、以前は冬寒く、夏暑かったのが、まるで違う。お金はある程度かかりますが、やはりその分効果はあります。この建物は骨組み構造を内側に見せており、内部はほとんど変えずに外部や設備を変えることにより、新築当初のまま内部を見せることが出来る建築です。
設計者の高橋公子先生は出来上がったときに、「美しい建物の骨組みはその見せることよい」と書いています。
この建物は、新築当時から設計協力をさせていただき、設計から施工図に至るまでの図面をほとんど自分で書き、打ち合わせし、施工の職人に伝え、現場を取り仕切って建てたもので、当然その後のメンテナンスも長く携わってきましたから、とても思い入れのある建物でした。それがそのままのかたちで後世へつなぐことが出来たことは、大変うれしいことですし、貴重な経験をさせていただき、感謝しています。
―――改善するにあたって、必ずしも新築だけが選択肢ではないですよね。
大原さん
そうですね。いいものは、いい形で残せる可能性がある。私はスクラップアンドビルドには賛成しません。30年、50年、60年と住める家にしていくべきだと思っています。また設計者もそのように心がけるべきだと思います。現在もいくつかの将来へ残すべき建物の改修に協力させていただいています。

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建築家住宅と工務店のあいだには、メンテナンスによって紡がれる長い縁があります。単なる修繕ではなく、建てた人が再び訪れ、設計の思想を踏まえながら手を入れること。そして30年先まで見据えた計画を示すこと。そこには「完成してからが本当のスタート」という家づくりの本質があります。長く使われることで価値を育てる。その先に、建築家住宅を文化として残す未来が生まれるのだと感じました。

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